日本生態学会

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第1回(2003年)日本生態学会賞受賞者

巌佐 庸(九州大学大学院理学研究院・教授)
菊沢 喜八郎(京都大学大学院農学研究科・教授)


選考経緯および選考理由:

 2002年12月17日(火)に東京大学総合文化研究科15号館会議室において、第1回(2003年)「日本生態学会賞」受賞候補者選考委員会が開催されました。候補者として9名の方から推薦された6氏に対して、それぞれの生態学における業績、および啓蒙的役割を考量した結果、選考委員会としては次の2氏がその顕著な研究業績により生態学の深化や新たな研究展開に指導的役割を果たされたものとして、第1回(2003年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定いたしましたので、ここに選定理由とともにご報告いたします。
 なお、当初には菊沢喜八郎氏は選考委員会におられましたが、選考の最終段階に候補として残りましたので、日本生態学会賞細則の第5条により、選考委員会からはずれていただきました。また、今回の選考に際しましては、細則の附則にある「受賞者数は1名をうわまわってもよいものとする」にしたがって、受賞候補者を2名としました。

巌佐 庸氏
 巌佐庸氏は、数理的手法による生態学の理解を国際的に大きく発展させました。多くの実証研究者と連携して行った生物の現実性を取り込んだ新しいモデルの構築は、多大な論文成果となって公表され、数理学者のみならず現場の生態学者にも広く刺激を与えつづけています。このような厳佐氏の国際舞台での活躍は、後に続く若手の研究を大きく活性化させました。具体的な成果としては、森林の動態、サンゴ礁での生物の共存と多様性、野生生物の絶滅リスク評価、空間構造のある集団の進化、配偶者選択、ゲノム刷込みの進化、マイクロサテライト反復数の進化、魚類錐体モザイク形成過程などの諸テーマを広く発展させ、生態学分野の発展に大きく寄与してきました。さらに、日本生態学会会長として、学会の様々な改革を通じて後進をリードしています。また、生態学関連の他学会の役員も多く努め、さらには、数々の著書類において日本の生態学全体の発展にも責献してきました。

菊沢喜八郎氏
 菊沢喜八郎氏は、木本植物の葉の比較デモグラフィーを、緻密な野外観測によって完成させ、重要な種間・系統群内の分化のパターンを明らかにしました。北海道立林業試験場の勤務に向かう前の早朝、毎日緻密に枝先の挙動を観測して得た、菊沢型の葉デモグラフィーダイアグラムに基づくフェノロジーの研究大成は、その後の葉の生理生態学、形態学的な研究に大きな示唆を与えました。さらに、葉の付け替え戦略を、採餌戦略理論に基づいて提唱・展開させて、従来の個葉機能レベルでの説明の限界を明瞭に示すことに成功しました。その後、葉付け替え理論をシュート形態と自己被陰を組み込んだモデルに展開したり、植物種多様性の地理分布理論に発展させるなど、自ら発展させつつあります。「森林の生態」(共立出版)や「植物の繁殖生態学」(蒼樹書房)などの教科書執筆をとおして啓蒙活動を行い、また学会では幹事長等を歴任し、さらに、その魅力的な学会発表は、多くの若手会員の範とされてきて生態学の発展に貢献されました。

選考委員会メンバー:粕谷英一 甲山隆司 椿宣高 松本忠夫 鷲谷いづみ

第1回 日本生態学会賞受賞候補者選考委員会委員長  松本 忠夫
2003年12月17日

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