日本生態学会

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第13回(2009年) 日本生態学会宮地賞受賞者

岸田 治(京都大学生態学研究センター,学術振興会特別研究員)
西川 潮(国立環境研究所環境リスク研究センター,研究員)
森 章(横浜国立大学大学院環境情報研究院,特任教員(助教))


選考理由

岸田治氏
 岸田氏は,エゾアカガエル幼生とエゾサンショウオ幼生をモデルとし,捕食者−被食者系での形態的な可塑性(主に誘導防御戦略)について,進化生態学的な研究を進めてきた.飼育実験によって両生類幼生に見られる形態的な可塑性の存在を実証し,その遺伝的な基盤の存在を示し,また,適応的意義と生態学的な機能を検証するなどにオリジナリティに富む研究業績を上げてきた.さらに最近は,分子手法をもちいた研究にも取り組むなど高い研究意欲を示している.実証研究を主体しながらも理論背景について十分に検討されており,研究の質は非常に高く評価できる.これらの進化生態学的な研究成果は, Ecology, Journal of Animal Ecology, Evolutionary Ecology Research, Oecologia, PLoS ONE, Ecological Research など国際的に著名な学術学会誌に発表され,英語論文は8報の被引用回数は延べ40回に達している(Web of Science 調べ).
 岸田氏の両生類幼生に見られる形態的可塑性に関する研究の達成度は高く,水族館職員として身につけた技術を駆使した飼育実験のオリジナリティも高く評価できる.よって,選考委員会は,同氏を第13回(2009年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定した.

西川潮氏
 西川氏は,ザリガニの食物網における役割,エコシステム・エンジニアとしての役割を野外実験等によって明らかにし,ザリガニが河川生態系におけるキーストーン種であることを立証した.在来種間の関係は相互に強く結びついているものの関係が複雑なためキーストーン種の判別は難しいとされてきたが,西川氏の一連の研究は,在来キーストーン種の役割を明瞭に示したもので,キーストーン種研究を大きく前進させたものと評価できる.また,西川氏はこのザリガニが河川生態系におけるキーストーン種であることを基盤に在来ザリガニと侵入種の相互関係,保全生態学においても活発な研究活動を行っている.主要な研究業績は Ecology, Oecologia, Oikos, Ecological Research など著名な学術雑誌に発表され,英語論文は15報にのぼる.主要論文は著名な生態学の教科書に引用されるなど,被引用回数は118回にのぼっている(Web of Science 調べ).
 西川氏はザリガニが河川生態系におけるキーストーン種であることを立証した研究の達成度は高く,被引用回数は40回にも達する論文があるなど研究のインパクトも高く評価できる.よって,選考委員会は,同氏を第13回(2009年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定した.

森章氏
 森氏は,主に亜高山帯林の森林動態についての研究をすすめてきた.亜高山帯林には雪害による枝葉の枯損から,風倒,大規模な山火事まで,様々な空間スケールでおこる自然撹乱がある.森氏は,樹木の空間分布や個体群構造,枝の伸長・生死のパターン,植生分布などを野外観測することで,これらの自然撹乱およびそれが引き起こす環境変化が,森林群集の動態や樹木の生活様式にどのように影響するのかを明らかにしてきた.研究成果は, Forest Ecology and Management, Tree Physiology, Ecoscience などの国際誌に多数発表され,英語論文は26報,主要論文の被引用回数は93回に達している(Web of Science 調べ).
 幅広い空間スケールでおこる撹乱体制とその影響を,個体,林分,景観レベルという体系で整理した森氏の一連の研究実績は手堅く,地球環境変動等による高標高,高緯度地域の森林生態系の変化を包括的に明らかにする上でも今後重要になると考える.よって,選考委員会は,同氏を第13回(2009年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定した.

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆(委員長),柴田銃江,杉本敦子,竹中明夫,辻和希,津田みどり,永田俊,松田裕之

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