日本生態学会

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第26回(2022年) 日本生態学会宮地賞受賞者

深野 祐也(東京大学農学生命科学研究科)
土畑 重人(東京大学大学院総合文化研究科)


選考理由

自薦5名の応募がありました。審査にあたっては、論文実績と研究の独自性、当該分野への貢献度・波及性、新しい領域を切り開いたかどうか、が重視されました。業績の質、研究の独自性と波及性において、5名のうち2名の応募者は他の応募者と比べて1歩抜け出ているという点で委員の意見が一致したため、これら2名は候補者としてふさわしいとの結論になりました。残りの3名については、論文数は多いものの生態学分野への貢献が十分ではない点や、自ら新しい研究領域を切り開いたとは言えないという点から、候補者にはふさわしくないという結論になりました。最終的に、深野祐也氏と土畑重人氏の2名が選出されました。

深野祐也 氏
深野氏は、外来種管理・雑草防除・農業生産・生物多様性の保全など、様々な課題について進化生態学的な視点から活発に研究を行なっている。北米からの移入植物であるブタクサとオオブタクサ、そして遅れて移入してきた植食者のブタクサハムシの関係性が、原産地と移入地とでは異なることに注目し、進化的な視点から研究をおこなった。この研究により、侵入地のオオブタクサは天敵が不在だったため防御形質が急速に低下したこと、また遅れて移入したブタクサハムシは、オオブタクサの防御能力の低下により、従来の食草であるブタクサだけでなく、新たにオオブタクサを食草として利用するようになったことなど、侵入地における植物と植食者の進化を紐解いた。近年は、農地のヒメシバと、都市環境に適応したヒメシバとでは、形態や競争能力が大きく異なることを明らかにし、またこの違いにより、除草作業にも影響することを示した。これら一連の研究は、人為的要因により、植物が急速に進化しうることを示す良い事例であると言える。また果実の熟し方の違いの生態学的意義についても研究を行い、追熟型の果実は地上動物により散布され、非追熟型の果実は鳥類など樹上性動物によって散布される傾向があることを文献調査により見出した。さらには、生物に対する人間の心理学の研究も行なっており、虫嫌いの人が多い理由、外来種への市民の関心の程度、保全における動物園や動物アニメの役割なども研究している。このように深野氏は、進化生態学的な視点から、広範なテーマについて、基礎と応用の両面に示唆を与える研究を活発に行なっており、今後も活躍が期待されることから、宮地賞を受賞するに相応しいと評価する。

土畑重人 氏
土畑氏は、昆虫の社会性を主な研究対象として、生物多様性の進化機構の解明に取り組んできた。土畑氏の研究において特筆すべき点は二つある。一つは社会性昆虫の進化生態学に関する理論と実証研究の両方を行い、国際的な成果を多く挙げてきた点である。理論研究では、女王とワーカーの発生分化様式の進化モデルを構築し、女王分化における進化的対立を解析した。一方、実証研究では、野外で採取したアミメアリのコロニーに対して形態解析とゲノム解析を行い、遺伝的に利他行動を行わない集団がいることや、これらの集団と利他的行動を行う集団との相互的な関係が公共財ジレンマに合致していることなど、社会性昆虫の非協力行動の進化に関してオリジナリティの高い研究を行った。もう一つの特徴は、社会性昆虫の集団行動を模倣した群ロボットシステムの開発に携わり、コロニーの進化プロセスの解明に取り組んだ点である。ここではアリの採餌行動を模倣し、道しるべフェロモンへの反応(根幹システム)と、衝突や渋滞を回避する「交通ルール」(調節システム)のそれぞれをコードする遺伝子の進化をシミュレートすることで、コロニーレベルの集団採餌の進化プロセスを明らかにした。このように土畑氏は、精緻な理論と実験に加えて、新しい技術の導入に挑戦することで、進化生態学の分野の革新的な発展に寄与してきた。今後の活躍が期待されることから宮地賞を受賞するに相応しいと評価する。

選考委員会メンバー:石川麻乃、大橋瑞江、小野田雄介、鏡味麻衣子、佐藤拓哉、佐竹暁子(委員長)、辻和希、半場祐子、森章

なお、選定理由紹介順は応募順である。

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