日本生態学会

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第12回(2019年) 日本生態学会大島賞受賞者

崎尾 均(新潟大学 農学部)
玉置 昭夫(長崎大学 水産・環境科学総合研究科)


日本生態学会大島賞には3名の自薦・他薦があった。長期にわたる野外調査を元にした研究活動の主体性や学会への貢献等を総合的に評価し、特に優れていた崎尾均氏と玉置昭夫氏を選出した。

選考理由

崎尾 均 氏
崎尾均氏は、 これまで30年以上にわたり、一貫して水辺林(渓畔林・河畔林)の構造と動態を、奥秩父や荒川中流域などを中心に研究してきた。主な研究テーマは、(1)上流域における渓畔林の構造と動態、(2)上流域における渓畔林の再生・修復、(3)外来樹ハリエンジュ(ニセアカシア)の分布拡大の機構と管理手法の検討、の3つにまとめられる。 森林生態系および樹木個体群動態の長期にわたるモニタリングを中心として、基礎から応用にわたる研究成果を着実に積み上げ、査読付き論文51報・学会発表27(うち、3は国際学会)として発表してきた 。代表的な成果として、奥秩父の天然林(大山沢渓畔林)において、上層の優占木3種(シオジ・カツラ・サワグルミ)について個体群動態と撹乱応答を長期調査によって明らかにし、対照的な生活史を持つ3種が、小規模なギャップから大規模な崩壊地までの様々な撹乱状況をうまく使い分けて共存していることを示した。 ニホンジカ個体群の増加や外来樹侵入動態など、生物多様性と生態系の保全管理方法に直接的に貢献する研究も進めてきた。また、個々の研究プロジェクトの成果を論文発表するだけでなく、総合的な知見の出版も、単著の「水辺の樹木誌」(2017)や「水辺林の生態学」(2002)、”Ecology of Riparian Forests in Japan” (2008) などの編著などを通して行ってきた。さらに、27年間にわたる渓畔林研究会(現在代表)の運営、山渓ハンディ図鑑「木に咲く花シリーズ」の執筆、などの活動を通して、専門研究者から一般までの広い層を対象に生態学の普及に貢献してきた。日本生態学会との関わりについては、1980年の入会以来、年例会においてほぼ毎年発表を行い、シンポジウム企画も5回行っている。以上、崎尾均氏は、「野外における長期生態学的データの蓄積などにより生態学の発展に寄与している会員に与える」、という大島賞の趣旨に大変よく合致する研究者と評価する。

玉置 昭夫 氏
玉置昭夫氏は、有明海とその西側の外海にある砂質干潟の底生無脊椎動物(ベントス)群集の動態について主に研究してきた。これまで1979年からは天草・下島の北西隅にある富岡湾干潟において、さらに2002年からは有明海の白川河口干潟において、干潟のベントス群集について長期生態観測研究を進めている。これらの河口干潟において40年近くにわたり行われた長期生態学研究により、優占種のメタ個体群動態や干潟生態系におけるメタ群集の動態などについて明らかにしてきた。また、白川河口干潟においては貝類の乱獲とスナモグリ個体群増大が起こったことによって、有用な水産資源であるアサリの急激な密度低下が生じたことも明らかにした。さらに、長期変動データから富栄養化が植物食ベントスの個体群にボトムアップ効果をもたらし、その後の群集変化を起こした、ということを明らかにした。これらの成果については、Estuarine Costal and Shelf Science, Marine Biology, Ecological Researchなどに多くの論文として発表されている。被引用件数は、770件と多くの論文が引用されている(Researcher ID調べ)。よって、玉置昭夫氏は、40年近くの長きにわたり干潟の底生ベントス群集の長期研究を進めた成果により、生態学、なかでも海洋生態学に、大きく貢献していると評価できる。以上のように、玉置昭夫氏は、長期データ取得により生態学の発展に大きく貢献されており、日本生態学会大島賞の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:東樹宏和(選考委員長)、岸田治、塩尻かおり、土居秀幸、井鷺裕司、北島薫、内海俊介、岡部貴美子、三木健

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