日本生態学会

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第1回(2013年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者

岩崎雄一(東京工業大学大学院理工学研究科)
高橋佑磨(東北大学大学院生命科学研究科)
藤井一至(森林総合研究所)


選考概要

 岩崎雄一氏は、幅広い分野の研究者と連携して、化学物質の生態リスク評価をおもに研究してきた。化学物質のリスク評価は、通常、実験動物を使って行われるが、岩崎氏の研究は、生態系としてのインパクトの観点から評価を行った点で新しい。水中亜鉛濃度と底生動物総種類数との関係を明らかにしている。また、ファットヘッドミノーの生活史パラメーターへの亜鉛の影響に関する実験の文献に記載されたデータを利用し、推移行列モデルを使って個体群動態への影響を見ようとする研究は意欲的と言える。将来的に、実験生態系を使って複合汚染の影響予測モデルに取り組もうとする方向性も評価できる。これらの研究はEnvironmental Toxicology and Chemistryなど、おもに化学物質の生態リスク評価の専門誌に発表されているほか、生態学会誌に総説(和文)を発表している。生態学会では多くの発表を行なっているとともに、企画集会を企画している。以上の理由により、岩崎雄一氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

 高橋佑磨氏は、雌に色彩の異なる二型があるアオモンイトトンボを材料に、野外調査や実験により、(1)局所個体群において雄型雌(雄に色彩の似た雌)と雌型雌の二型が、雄の配偶行動(ハラスメント)に起因する負の頻度依存選択によって、安定的に維持されること、(2)この雄の配偶選好は、配偶成功の経験による学習によって決まること、(3)東日本から西日本の広範囲にわたる個体群間で、雄型雌と雌型雌の遺伝子型頻度に、ゆるやかな地理クラインがあることを明らかにした。高緯度では雄型雌が低緯度では雌型雌が多く、この傾向は、異なる緯度における二型の適応度の大小と一致していたが、緯度に伴う適応度の変化だけではゆるやかな地理クラインは説明できず、負の頻度依存選択が同時に働くことで説明できることを見いだした。これらの研究成果は、Evolution, Animal Behaviour, BMC Evolutionary Biologyなどの10編の英文論文として発表されている。生態学会では、多くの発表を行なっている。以上の理由により、高橋佑磨氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

 藤井一至氏はこれまで、熱帯の森林を対象とした、植物−土壌間の物質循環に関する研究を行ってきている。主要な成果としては次のものがあげられる。(1)森林の植物や微生物が栄養塩吸収のために細根から酸を放出し、それによって土壌が酸性化することを示した、(2)特定の樹木が根から有機酸を放出することで難溶性のリンを獲得できるメカニズムがあることを明らかにした、(3)白色腐朽菌が酸性土壌で特異的にリター中の難分解性リグニン分解を促進する酵素を生産できることを発見した。これらの研究の成果は、Ecosystems、Geoderma、Plant and Soil、Soil Biology and Biochemistryなどに発表され、英文論文をcorresponding authorとして合計13編発表している。このように藤井氏は、森林生態系を対象とした物質循環論について、これまで十分に明らかにされていない土壌中でのリンのダイナミクスや、それへの植物、微生物の機能に焦点を当てて、精力的にフィールドワークを進めている。加えて、14Cをトレーサーに用いる比較的新しい手法で植物−微生物間の炭素の流れを定量化することを試みている。この手法は、今後、重要なツールとなることが期待される。新たな手法や切り口がブレイクスルーになるためには、今後の成果の積み重ねが必要と思われるが、上記の研究成果は、高く評価されるものであり、将来の発展も見込まれる。生態学会では、発表の他、シンポジウムの企画なども行なっている。以上の理由により、藤井一至氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:宮竹貴久,谷内茂雄,吉田丈人,粕谷英一(委員長),酒井章子,綿貫豊,大手信人,佐竹暁子,正木隆

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