日本生態学会

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第9回(2021年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者

水元 惟暁(沖縄科学技術大学院大学)
GUTIERREZ ORTEGA Jose Said(Faculty of Science, Chiba University)
中臺 亮介(東京大学・東フィンランド大学)
平野 尚浩(東北大学 東北アジア研究センター・生命科学研究科)


日本生態学会奨励賞(鈴木賞)には、大学院生を含む若手研究者 計15名の応募があった。これまでの研究業績と研究の独自性、研究の主導性、今後の発展性を総合的に評価し、特に優れていると判断された水元 惟暁 氏、GUTIERREZ ORTEGA Jose Said 氏、中臺 亮介 氏、平野 尚浩 氏の4氏を選出した。

今回は過去最多の応募者数であり、惜しくも受賞に至らなかった若手研究者の中にも多数の優れた研究者がおられた。今後研究をさらに深化させ、再チャレンジしてほしいとの委員全員からの期待についても強調したい。

選考理由

水元 惟暁 氏
水元氏は、シロアリにおける行動生態学的研究から、生物の行動の法則性や集団行動メカニズムの解明に取り組んできた。配偶者探索において、限られた時間の中では雌雄で異なる動きをすることが相互に最適なこと、その動きの性差が遭遇確率の上昇に寄与することを、実験観察とシミュレーションを用いて提示し、性的二型の進化に関する新規の理論を確立・実証した。集団行動の中でトンネル建設に着目し、構造物パターンに見られる種内変異は単一の行動ルールから生じること、行動レパートリーの種間変異は混雑時の他個体への反応の違いにより生じることを示し、集団行動のメカニズムを明らかにした。さらに、絶滅したサケスズキモク魚類の集団が保存された化石から、現生の魚の群れ行動に見られる誘引と衝突回避の行動ルールの痕跡を見出した。これらの研究はユニークな発想と、入念な行動観察実験、シミュレーションの組み合わせにより実現しうる、独自性の高い顕著な業績といえる。一連の研究は21報の英語学術論文として公表されているほか、国際学会でも積極的に口頭発表を行い、日本学術振興会育志賞など数々の賞を受賞している。日本生態学会においては英語口頭発表における最優秀賞、優秀賞の受賞や企画集会の企画など学会の活性化にも貢献している。現在は群れ行動を行わない種を操作して行動のポテンシャルを引き出し、行動の系統種間比較からマクロ進化プロセスを解明しようという果敢なテーマに取り組もうとしている。今後の発展が大いに期待でき、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価する。

GUTIERREZ ORTEGA Jose Said 氏
GUTIERREZ ORTEGA 氏はソテツDioon 属の種分化と適応放散機構に焦点を当て精力的に研究を展開している。氏は2020年に発表された主著でニッチの保守性が種分化を促したことを示す世界初の経験的証拠をメキシコのソテツ類で提示した。ニッチ保守性が種分化を促進するという主張は常識的考えとは逆だが、理論上はありうると予測されていた。ニッチが保守的だとわずかな気候変動でも生息地が分断されやすいからだ。GUTIERREZ ORTEGA(グティエレス オルテガ)氏は、実際メキシコのソテツの種多様性形成に気候乾燥化とニッチ保守性による生息地の分断が貢献したとする説得力ある証拠を、バイオインフォマティクス、形態分析、GIS、比較系統地理などの手法を駆使した現代的学際アプローチで示した。これは極めて優れた独創的業績である。また氏は、日本とメキシコの国際共同研究を先導しており、日本とメキシコの科学者の交流イベントを複数企画するなど、生態学における日墨の掛橋になっている。さらに、現在はEcological Researchのcopy editorを担当するなど日本のアカデミアへのコミットメントも目覚ましい。今後多方面での活躍が期待できる若手研究者であり、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価する。

中臺 亮介 氏
生物多様性がどのように生じ維持されているのかを理解することは、生態科学の主要命題である。中臺 氏はこれまで、多様性科学において成果をあげており、動物–植物相互作用を基軸にした植食性昆虫の食性変化と種分化の関係解明、ハマキホソガ属の寄主植物利用と群集構造の分析、さらにメタバーコーディングやオープンソースデータを活用した生物分布決定要因の解明に貢献してきた。近年は、微生物から樹木までを考慮にいれた群集理論を提案しており、フィールド・遺伝子・統計モデルを融合した研究を進めている。学際的研究領域である多様性科学では、地道なフィールドワークによる多様な種を対象としたデータ取得、分布モデルや系統分析をもとにしたデータ解析、分子系統樹構築のためのDNAシーケンスなどの遺伝子解析など多岐にわたるアプローチが必要であるが、それを申請者がすべて主導して行っていることは申請者の熱意と能力の高さを示している。また、基礎的な研究に加えて新しい多様性指標の提案など応用研究への貢献からわかるように、基礎ー応用のバランスがとれた研究姿勢を持ち合わせていることは、学位取得後間もない若手研究者としては稀有な存在である。ポーランド・フィンランド・ノルウェーなどにも滞在することで築いた国際ネットワークをもとに、今後生態学分野を超えた幅広い活躍が期待される若手研究者であることから、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しい業績をあげていると評価する。

平野 尚浩 氏
平野 氏は、陸貝や淡水産貝類を対象に、種多様性が生じる過程について取り組んできた。特に、古代湖や島嶼生態系が複数存在する東アジア地域は、これら貝類の多様性ホットスポットとして知られているが、その多様化プロセスについては不明な点が多かった。平野氏は、広範囲に及ぶ試料収集、化石も含めた殻形態の入念な観察、MIG-seqなど最新のゲノム解析技術に基づき、説得力のあるデータを提示し、多様化のプロセスを明らかにした。例えば、日本列島のオオベソマイマイ属では、地理的隔離による殻形態の平行進化が著しく、生息環境と関連があることを示した。南西諸島のオナジマイマイ属では地理的隔離だけでなく長距離海流分散によって多様化するという、移動能力に乏しい貝類において希有な例を捉えた。琵琶湖を含む古代湖のタニシ科では、捕食者である魚や湿地など微環境の違いによって湖ごとに独立して表現型が平行進化し多様化の創出につながったことを明らかにした。それらの成果は24報の英語学術論文として発表されているほか、和文17報、分担執筆著書3冊を出版するなど成果を上げている。現在は、外来種や絶滅危惧種としての軟体動物の保全上の問題や、殻形態多様化の遺伝基盤、共生細菌叢の解明にも取り組んでおり、今後の展開も大いに期待できる。日本生態学会ではシンポジウムを企画しするなど学会の活性化にも貢献している。以上のように、平野 氏は日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価する。

選考委員会メンバー:内海俊介、岡部貴美子、三木健、佐藤拓哉、辻和希、半場祐子(委員長)、小野田雄介、鏡味麻衣子、佐竹暁子

なお、選定理由紹介順は応募順である。

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