日本生態学会

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会長からのメッセージ -その10-

「外来種対策事業仕分けについて」

 以下の記事を朝日新聞2012年8月6日付のオピニオン欄に掲載させていただきました。その際、朝日新聞社のほうで大変わかりやすい見出しをつけていただきました。転載を許可いただいた朝日新聞社に感謝します。

「マングース捕獲 事情知らぬ仕分けに疑問」

 マングースの捕獲作業が、沖縄北部のやんばる地域と鹿児島県の奄美大島で環境省の事業として進められている。各地の外来種防除事業のなかでも目玉である。ヤンバルクイナやアマミノクロウサギといった希少動物を襲うなど、生態系に深刻な影響を与えてきたからだ。

 もともと、奄美のマングースはハブを捕食することを期待して1979年頃に約30頭が放たれ、毎年4割以上の勢いで増えていった。当時の人間の間違いが招いた人災である。

 奄美では約40人の作業員に委託し約700平方㌔の島の山中にわなを仕掛けて、年間最大3884頭を捕獲してきた。3年前からは探索犬も導入し、効果をあげている。今では生息数が数百頭以下に減り、それにつれて捕獲数も減ってきている。ケナガネズミなど、マングースに捕食されていた奄美本来の生物をよく見かけるようになった。

 ところが、こうしたマングース捕獲事業が非効率で、抜本的に改善するように事業仕分けで求められた。昨年度の捕獲数が作業員1人あたり1頭だったことなどを理由に挙げている。作業員に対して、捕獲数にかかわらず定額の労賃を支払うのではなく、捕獲1頭当たりいくらという報奨金にする方がよいとされた。

 仕分けでは、マングースのような外来種対策そのものが不要と言っているのではない。報奨金の費用対効果の方が高いと言っているのである。ただ、外来種根絶事業では「9割減らすことよりも、残りの1割を獲りきるほうが難しい」といわれる。生息数が減れば捕獲数が減るのは当然のことで、それをもって非効率とするのは、私に言わせれば論外である。今回の仕分け結果には疑問を感じざるを得ない。

 行政事業の様々な現場にはそれぞれ、仕分け人の知らない様々な事情があるはずだ。それを信頼できる専門家に聞いたうえで、作戦を立てるべきだ。外来種対策でいえば、生態系の専門家らだ。民主党政権は行政事業見直しの過程も公開すると誇らしげだが、今回、仕分け人はいったいどんな専門家に聞いたのか、誰にも聞いていないのか。それこそ情報を開示してほしい。

 まだ先の話になると思うが、最後のマングースを捕獲するとなったら、指名手配犯の逮捕にも匹敵する価値があるということが理解されていない。せっかく効果が出てきているのに、いったん捕獲の手を緩めれば、奄美ややんばるの在来種は再び危機に瀕するだろう。

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