日本生態学会

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会長からのメッセージ -その25-

「退任の挨拶」

 4年前の会長選挙で次期会長に指名されたとき、中静前会長から、法人化は彼の任期中には行わないと言われました。法人化の準備は矢原元会長時代にかなり進んでいたので、高田前幹事長、陶山現幹事長ほか法人化WGの力で、進めることができました。

 中静前会長時代の最大の事件は東日本大震災であり、生物多様性条約締約国会議(COP10)だったでしょう。前者では震災復興に関する意見書を出しました。また、防潮堤建設の動きに対しては、私が会長になってからですが生態学の知見を反映させるために生態系管理専門委員会から申立書をだしました。後者では生態学会は環境省とともに学会として、あるいは会員個人として、愛知目標、日本の生物多様性総合評価、アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)、国連大学の日本里山里海評価などの策定において多くの役割を果たしたと思います。もう一つ、役員選挙に電子投票を導入しましたが、費用は若干軽減したものの、投票率は思うように改善されませんでした。役員選挙の投票率が1割程度というのは、学会内部に大きな対立がなく、役員に大きな権力がないことの表れでもありますが、法人化に備えて危ういと思いました。

 私の任期中の事件といえば、法人化を行ったこと、ABC会員制度を廃止したこと、事務局職員の昇給規定などを整備したこと、奨励賞(鈴木賞)を新設したこと、英文誌が大型補助金を獲得したこと、第5回EAFES大会を大津で開催したこと、そして会員数が1987年以来24年ぶりに、しかも2年連続しての減少したことです。最後の会員数減少は不名誉な記録で、申し訳ありません。会員数がこのままという前提で、今後20年にわたって学会財政が健全に営まれるかどうか、高田前幹事長に綿密に検討いただきました。特に、会員数をさらに増やすことも、学会としての事業内容を拡大することも、財政上は必要ないと判断しました。それらは、学会の使命から鑑みて、今後の執行部が判断されればよいでしょう。たとえば、環境コンサルタントの方々などは、3月の大会にはほとんど参加できません。他方、特に修士2年生の発表の機会としては年度末が最適です。役員選挙の電子投票はかなり定着しました。しかし、投票率を高めるべきと考え、繰り返し皆さんに投票をお願いしました。お蔭様で投票率は17%程度に上がりました。ありがとうございました。

 2012年のRio+20会議の頃から、気候変動と生物多様性の科学者の動きを糾合したFuture Earthが結成され、私個人も気候変動学者との交流が格段に増えてきました。また、生物多様性条約でも政府間プラットフォーム(IPBES)が結成され、引き続き国際社会で生態学者が貢献する場ができました。

 それらに連動し、国内で学会連合という科学者コミュニティが動く機会も増えてきました。生物科学学会連合が日本版NIH構想への意見書を出す際には、きわめて短時間の間に意思決定せねばならず、しかも当初の文案が未熟であったため、全国委員会の決裁が間に合わないままに決断せざるを得ませんでした。結果としては多くの学会が同調しており、よかったかもしれません。これからも、このような緊急の意思決定が求められるでしょう。法人化後は、学会の法律上の意思決定機関は代議員総会になります。また理事会の権限もより明確になります。今まで行っていた全国委員会決裁や執行部判断はより重きを増すことになるでしょう。同時に、議事録の整備など、一般会員と社会に対する説明責任もより重要になります。

 同時に、各国の生態学会との連携の機会が急に増えた感があります。Intecolという世界組織だけでなく、David Inouye次期ESA会長の努力により、Global Ecological Societies forum と称する各国の学会長の緩い連携が生まれ、東アジア生態学会連合の共同作業も大いに進むでしょう。一般会員の皆さんも、これら他分野、他国との交流の機会の活用方法を提案されればよいと思います。

 「会長からのメッセージ」は、3代前の菊澤会長が始めたものです。彼は多くの味のある随想をメッセージに残しました。次の矢原さんは、個人のブログでは豊富な情報を発信していますが、会長としての発信は多くはありませんでした。その気持ちはよくわかります。中静さんも同様です。私の時代には、学会執行部から発信するツールとしての役割を務めてきたと思います。将来は英語版も必要になるかもしれません。

 歴代会長の多くは淡水を含む陸上の研究者で、基礎研究者が多く、水産学会員と兼ねる会長は私が初めてではないかと思います。学会としての立ち位置は変わりませんが、会長個人の活動も社会は見ていると感じました。各省庁や環境団体などとの個人的関係は、私は歴代会長とは少し違っていたかもしれません。学会の自然保護の要望書は環境団体より過激だと、ある環境団体の方にいわれたことがあります。10年ほど前に当会でも学会としての自然保護活動の是非をめぐって議論が起きました。その結果、何名かの著名な方が当会を去りました。それをとどめることができなかったことは、今でも私の重荷です。

 最後に、わが生態学会の最大の魅力は大会にあります。今年英国のINTECOLに参加しましたが、熱気に関しては日本の大会は劣らないと感じました。その運営の多くを大会企画委員会と開催地区の実行委員会が担っています。彼らの奉仕作業の負担はたいへんなもので、かつ、企画数が増え続けるなど毎年限界を超え、合理化と補強が間に合わない状況が続いています。何か名案がないかと常々考えていますが、なかなか思い浮かびません。その中で、ポスター賞の英語化、英語口頭発表賞の新設など国際化を図ってきました。しかし、これも大会運営を日英二ヶ国語の対応が必要となり、大変です。ここで全くの個人見解の思い付きを申しますが、大会を2回に分け、英語のみの国際大会に加えて、秋に日本語のみの大会を開催する手もあると思います。・・・いや、勝手なことを申しました。皆さんも、いろいろ知恵をだしてください。世界と日本の生態学と社会のために。

 素っ頓狂な私をはらはらしながら支えていただいた皆様、本当にありがとうございました。

日本生態学会 会長 松田裕之

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