日本生態学会

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会長からのメッセージ -その10-

「英仏生態学会合同大会」

 大会はリールの国際会議場(グラン・パレ)で開かれました.この会議場はなかなか立派で,700-800名規模と思われるメイン会場の他に中規模の会議室がたくさんあり,シンポジウムと口頭発表をあわせた12のセッションを平行して開くことができます.会議の構成はスタンダードで,プレナリー講演(3講演),シンポジウム(10課題),テーマ別口頭発表(62課題),ポスター発表(約250論文)となっています.このほかに自由集会のようなワークショップ(8課題)もありました.口頭発表が活発なのが特徴でしょうか.それぞれのテーマごとに8論文くらいの発表がありましたから,口頭発表だけで約600論文となります.すべての発表数をざっと推定すると900論文くらいだと思います.参加者数=約1,200,発表数=約900くらいの規模です.日本生態学会の大会参加者はここ数年2,000名を超えていますし,広島大会の発表数は口頭+ポスター発表だけで1,158論文ですから,日本生態学会の大会規模は,英仏の合同大会を凌ぎ,米国に次いで世界で2番目といえるでしょう.

 発表は会員ばかりでなく,大会参加費を支払えば誰でも可能です.私はポスター発表にエントリーしました.ポスターの掲示は12月10日,11日の両日が可能で,説明を義務づけられる時間はどちらかに振り分けられます.広い会場に英語と仏語が飛び交って,大変賑やかでした.

 ポスター発表の形式や雰囲気は日本のものとほとんど変わりませんでしたが,テーマ別口頭発表が大変印象に残りました.まず,発表者が若い.ほとんどが博士課程の大学院生かポスドクだそうです.また,座長は半日のセッションを一人で務め,これもポスドククラスが担当します.座長も演者も若いので緊張感の中にもウキウキとした雰囲気が漂っています.質疑も活発でした.会場で偶然に会った天野達也君(ケンブリッジ大学のポスドク)によると,大御所と見られる人はシンポの招待講演者となる以外はあまり学会発表をしない,ということでした.懇親会で同じテーブルに座った英国生態学会の元会長・チャールズ・ゴッドフレーさんによると,座長がポスドクなのはルールで決まっているわけではないが,若い人を積極的にエンカレッジした結果だ,ということです.テーマ別口頭発表のオーガナイズや座長を務めることはその分野の研究動向を知る上で大変勉強になりますし,シンポのオーガナイズへのステップになるのでとても良いと思います.

 テーマ別口頭発表を聴くのが忙しかったので,シンポジウムは1つしか出られませんでした.これで全体を語ることはできませんが,日本と大きく違うことはなさそうです.

 最後に興味深いデータを報告します.大会最後のプレナリー講演でカミル・パームサンさん(プリマス大学)が米国生態学会の発表テーマを分類し,年次的な変化を指摘しました.正確なメモはとれませんでしたが,理論と実証研究を中心とする基礎生態学の発表は,かつては過半数を占めていたが,1990年代には応用課題や政策決定にかかわる課題が増え,最近は農業生態系生態学,都市生態学が隆盛になっている,ということです.一方,英国生態学会ではこの傾向はそれほど顕著ではなく,基礎生態学が依然として多くの割合を占めているそうです.

 学問に流行,廃りはつきものですが,米国の極端ともいえる研究動向の変化にちょっと寂しさを感じました.

2014年12月13日 会長 齊藤 隆

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