日本生態学会

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会長からのメッセージ -その19-

「退任のごあいさつ」

松田前会長から会長職を引き継いだとき,
(1)一般社団法人化した学会の運営を軌道に乗せること,
(2)国際的な活動を一層進めること,
(3)将来に備えた学会体制を整えること,
が任期中の主要な課題だと考えました.

 一般社団法人化の手続きは,前執行部で済ませていただいていたので,敷かれたレールに沿って進んでいけば良いと高をくくっていました.しかし,甘かった.「設計と施工は別物」どんな立派な制度設計でも,運用して初めてわかる問題はあるものだと痛感しました.陶山前専務理事,岡部現専務理事を中心に執行部のチームワークで乗り切ることができました.

 松田さんは,退任の挨拶で,「わが生態学会の最大の魅力は大会にあります。...その運営の多くを大会企画委員会と開催地区の実行委員会が担っています。彼らの奉仕作業の負担はたいへんなもので、かつ、企画数が増え続けるなど毎年限界を超え、合理化と補強が間に合わない状況が続いています。何か名案がないかと常々考えていますが、なかなか思い浮かびません。」と述べられました.

 私は,大会企画委員会と大会実行委員会の代表を務めたことがあります.これらの仕事の困難さは,松田さんのご指摘の通りで,委員の生態学への愛(奉仕)によって支えられています.その奉仕作業は,汗を絞り出すような作業で,「手弁当」のレベルをはるかに超えています.その象徴が,大会管理システムで,生態学会大会用に会員に書き下ろしていただいたオーダーメイドプログラムです.複雑な大会の構造に対応したプログラムの制作も大変ですが,大会のありようが毎年少しずつ違うので,万を越える行に及ぶプログラムに毎年手を入れていただくことになります.「このシステムを外注したらいったいいくらになるだろう」と囁きあっていましたが,実際の金額を知るのが恐ろしく会員の奉仕に甘えていました.

 しかし,問題を先送りできない状態となりました.実行委員会や企画委員会のメンバーの方々には,ご自身の研究を棚上げして,学会のために働いていただいているのが現状なのです.

 ここでも,自分の見通しの甘さを痛感することになりました.はじめは、「大会管理システムの外部委託を中心に大会運営を見直すこと」が主要な問題だと思っていました.しかし,大会が抱える問題は大会管理システムだけではありません.委員会の負担を減らすにはもっと幅広い見直しが必要なことが明らかになりました.そこで,陀安一郎さんを中心とするタスクフォースにその検討をお願いしました.その結果,これまで京都の事務所で行っていた会員管理業務も外部委託し,その労力を大会運営の事務に振り向けるという「名案」が出てきました.

 これは確かに名案です.しかし,別の問題が発生します.それは,予算です.大規模な外部委託に学会の財政が耐えられるのか.今は耐えられるにしても,将来は大丈夫か?財政問題は,会計担当の池田浩明さんに検討をお願いし,タスクフォースからの報告と合わせて学会大会運営の改革案をまとめました.

 かなり大がかりな改革となりますので,会員の皆さんに丁寧に説明する必要があります.理事会で何回も議論いただき,2015年の鹿児島大会の総会で、運営改革案を議決いただきました.

 運営改革は議決いただいた計画に沿って動き始めています.2016年4月からは新しい会員管理システムに移行します.新システムでは多くの個人情報を皆さんが直接管理することができます.公開が許された個人情報を基に会員の検索が可能になります.各種選挙もウェブ上で行えます.大会参加申し込みが会員情報と連動するのでだいぶ便利になると思います.

 複雑な問題を考えるときには,原則を定めることが大切だと思います.そうしないと,検討内容が多岐にわたると,はじめの問題設定からどんどんと離れて行ってしまう危険性があります.執行部では改革の原則(目的)を,(1)学会・大会の魅力を高める,(2)運営のための会員の労力負担を減らす,(3)健全な財政構造を確立する,と定めました.改革の動機は,会員の労力負担を減らすことでしたが,(1)と(3)を損ねてはなりません.この3要素のバランスをどのようにとるのかが,今後の改革の肝と言えます.

 バランスの取り方については,会員の皆さんの声を十分に取り入れたいと考えています.総会で議論する時間を十分にとれれば良かったのですが,それは難しく,仙台大会では実行委員会に無理をお願いして,「生態学会の将来について語る会」(総会第2部)を開かせていただきました.「語る会」の概要は,以下のサイト( http://www.esj.ne.jp/esj/Unei_kaikaku/index.html )で紹介しましたので,ぜひご覧ください.これに加え,アンケート調査で皆さんのご意見をお聞きしますので,よろしくお願いします.

 私の任期中に,英国生態学会(BES),米国生態学会(esa)が100周年を迎え,記念行事が賑やかに行われました.これを期に,David Inouye前esa会長が各国の生態学会に呼びかけ,Global Ecological Societies forum と称する緩い連携が生まれました.各国生態学会の代表者の懇談会として始まりましたが,しだいに学会運営や学会と社会の関わり合い方について意見を交換する場として機能し始めました.そして,米国ボルティモアで開かれた2015年の esa 100周年大会で,この年の12月にパリで開かれる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に向けて,動議を発することになりました.その内容は「急激に進行する自然資産の喪失に鑑み,平均気温の2度上昇を食い止めるための決め手となる措置を直ちに実行するように求める」(添付書類へリンク)もので,13学会等の賛同を得て,議長国のフランス大統領,外務大臣などに送られました.

 ご承知のように,COP21は合意作りに苦しみながらも大きな成果を上げました.パリ協定の成立に我々の動議がどのような効果を持ったのかわかりませんが,Global Ecological Societies forum が国際社会に向かって声をあげた意義は大きいと思います.

 動議の原案は,フランス生態学会が準備し,ボルティモアで議論したあと,メイルを通じて文案を練り上げました.日本生態学会は,理事の方に原案をメイルで急いで配信し,代表者が署名することについて了解いただきました.米国も似たような手続きをしたようで,最終合意の直前に「radical」という表現を「decisive」に置き換えるように求めてきました.esa はこのような文書の取り扱いに慣れているようで,言葉の選び方が慎重です.

 Global Ecological Societies forum がこれからどのような性格を持っていくのか良く見通せませんが,友好団体との交流を深める場としては間違いなく機能しています.esa や BES の学会運営の仕方は,我々の参考になるように思いますので,今後も大切にしていきたいものです.

 この2年あまりの間,学会ではここに掲げたこと以外にも多くの成果,活動がありました.そのほとんどは編集委員会,専門委員会が独自性と責任をもって成し遂げてくれたことであり,感謝に堪えません.ありがとうございました.活気ある生態学会を支える組織として今後も奮闘していただきたいと思います.

 生態学会は私の研究にとって必要な場なので,グランド整備をするような気持ちで運営などに関わってきました.2年あまり前に執行部を預かるようになってからもグランド整備の精神は変わりませんが,一緒に汗を流してくれる仲間との交流密度がとても濃くなりました.生態学会にはなんと気持ちの良い仲間が多いことでしょう.私心なく学会のために汗を流す仲間の活動にふれて,生態学会が一層大好きになりました(運営改革の精神からはずれてしまいそうですが...).

 本当にありがとうございました.

 2016年3月25日   日本生態学会 前会長 齊藤 隆

esa20150810

仙台で慰労会を開いていただきました.
前列左から,可知直毅さん,岡部貴美子さん,齊藤 隆,陶山佳久さん,橋口陽子さん
後列左から,鈴木晶子さん,池田浩明さん,牧野能士さん,石井励一郎さん

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