会長からのメッセージ -No.2-
「コンテンツ・クレデンシャル」
デジタル写真はもはや如何様にも加工できるので、その写真がどのように撮影されその後加工されたかが分からなくなってきている。肖像権の侵害や信憑性に対する疑義など問題も数多い。そこで生まれたのがコンテンツ・クレデンシャル(Content credentials)のシステムである。このシステムは当該写真にメタデータを付与することで、写真の真正性や加工の履歴が辿れるようにしてあり、すでに一部のカメラには予めインストールされるようになった。私はこのようなカメラは持ち合わせていないので使ったことはないが、とても憧れている。
論文作成の過程でも昨今は生成A Iが使われることが当たり前になってきたようだ。プログラムのコードをA Iに書いてもらうなどは序の口で、論文構成やポンチ絵、ポスターのデザインなどにも使われ、どこまでが著者自身によるものなのか判断が難しく、研究の世界でも大きな問題となりつつある。さらには論文査読をする側もA Iを用いることがあるらしく、混沌としている。
皆さんは何のために論文を書くのだろうか?学位を取るため、職を得るため、研究費を獲得するため、など色々あって良いと思う。でも元々は、自分が発見したことを皆に知らせたい、こんな面白い現象が世の中にはあるのだ、積年の謎を解き明かしたぜ、とウキウキしながらそれを論文という形にすることに喜びを感じる方も多いのではないだろうか。それを可能な限り自分の力でやることに充実感を覚えるからではないだろうか。
恥ずかしながら初めて論文投稿したウン十年前には、編集者から「何か面白そうなことが書かれているようだが、あなたの英語は受理されるレベルにない」と突き返された。当時研究室には国際誌に投稿している人はおらず単著でもあったので、もがき苦しみながら投稿した結果がこれであった。しかしそんな酷い英語で書かれているにも関わらず、査読者は論文の優れた点と改善すべき点を署名入りで事細かく指摘してくれていた。現在は査読者は匿名であることが通例だが、以前は署名入りレポートも割とあった。それだけ査読に誇りを持っていたのだろう。この査読レポートでどれだけ勉強になったことだろう。査読してくれた人には感謝しかない。
その後指摘事項を修正し、英文校閲というものにも出して同じ雑誌に再投稿した。そんな自分にとっての初めての論文が受理された時の歓びは、今でもはっきり覚えている。そしてそれが印刷されているジャーナルを手に取って(当時は紙媒体しかありませんでした)、研究者としての第一歩を踏み出せたことに安堵と責任感も感じた。
論文投稿も査読も楽しみながらの真剣勝負のはずです。大会で発表することも勿論楽しいものですが、誇るべき自分の研究を論文として学会誌に投稿しましょう。そして査読も忙しいからと安易に断らず、真摯に論文と向き合いましょう(商業主義雑誌への対応は考えものですが・・・)。
各学会が責任を持って出版している学術誌は学会活動の肝の一つです。日本生態学会はEcological Research、日本生態学会誌、保全生態学研究というそれぞれ特徴のある学会誌を発行しており、出版担当理事、各編集長や編集委員をはじめ数多くの方々がそれを支えてくださっています。現段階のコンテンツ・クレデンシャルシステムは論文作成過程に適用するにはまだ十分ではないようですが、生態学会でも論文投稿や査読のプロセスでA Iに対してどのように対応していくか、具体的に検討を始めなければならないと感じています。
また、生態学会会員は個体群生態学会が編集するPopulation Ecologyと種生物学会が編集するPlant Species Biologyの2誌もWiley Online Libraryを通じて閲覧することができます。これらの雑誌もあなたの論文投稿先に加えていただければと思います。
拙い文章を読んでくれた人に少しでも楽しんでもらおうと、写真も載せることに事務局の鈴木さんに賛同いただいたので、今回から文章とは関係なく掲載することにします。
河津の天然スギとアカガシなど常緑広葉樹の混交林(同位体分析用のサンプリングをしている富山大の太田さんを横目に見ながら2022年9月12日撮影。撮って出しのjpegで加工は施していません)。
この辺りには最終氷期にもスギのレフュージアがあったと推定されている。
2026年4月25日 会長 日浦 勉
